発注前に準備しておくべき要件定義書・仕様書とは?
- atsu wada
- 2025年9月22日
- 読了時間: 8分

システム開発を外注する際、最も重要なのが「要件定義書」と「仕様書」の準備です。エンドユーザーが開発会社に直接発注する場合はRFP(提案依頼書)が中心となりますが、元請けから二次請け、三次請けへと続く多重下請構造や、上流工程完了後の開発・テスト工程を別会社に委託するケース、さらには工程別に複数のベンダーを使い分ける分離発注などでは、発注側でこれらの資料をきちんと準備することが不可欠です。
これらが曖昧なまま走り出すと、開発途中で認識のズレや追加費用が発生し、最悪の場合はプロジェクトが失敗に終わります。だからこそ、契約前に文書で合意形成することが欠かせません。
紙の書類というより、共通のイメージを持つための道具です。 実際、外注トラブルの多くは要件や仕様の認識齟齬から生まれます。裏を返せば、要件定義書と仕様書がしっかりしていれば、多くの問題は最初の段階で解決できます。難しい専門用語で埋め尽くす必要はありません。誰が読んでも同じ意味に伝わる表現で、目的と範囲とやり方を揃える。まずはここからです。
本記事では、必要な書類の種類、要件定義書の書き方、仕様書の確認ポイント、テンプレートの活用法までを読みやすい順にまとめました。
導入
外部の開発会社に依頼するメリットは、専門知識と実行力を短期間で取り込めることにあります。一方で、社内事情を知らない相手に伝えるには、前提や期待値を言語化して共有する準備が必要です。口頭での説明だと人によって解釈が異なりますが、文書で残せば後から同じ意味を確認できます。まずは目的、範囲、優先度、完成の基準をまとめるのがコツです。
必要書類の種類

外注前に準備しておきたい書類は主に二つです。完璧でなくて構いません。会話の中で育てていきます。
要件定義書
システムに「何をさせたいか」を明確にする資料です。背景と目的、対象範囲、実現したい機能、運用時の条件などをまとめます。方向性が固まれば、見積もりの根拠が揃い、優先度の判断も安定します。
例:月末の集計作業を3日から半日に短縮したい/在庫の差異を減らしたい。
仕様書
要件定義書をもとに「どう実現するか」を詳細化した資料です。画面構成、操作フロー、データの流れ、入力チェック、エラー時の動作など、具体的な振る舞いを決めます。開発者にとっての設計図であり、作業指示の土台になります。
仕様書では、要件で定義した機能が正しく形になるよう、画面ごとの役割やデータの扱い方、例外時の対応まで踏み込んで記載します。初期段階では図や簡易フローを使って構いません。言葉だけよりも、図解やレイアウト案がある方が双方の理解が早まります。
要件定義書の書き方

要件定義書は、読み手が同じ絵を思い浮かべられることが大切です。説明は簡潔に、しかし具体的に。次の流れで書くと、抜け漏れが少なくなります。
目的・背景を明確にする: なぜ導入するのか、どの業務をどれくらい改善したいのかを書きます。「便利にする」ではなく、「月次レポート作成を3日→半日に短縮」「問い合わせ対応の平均時間を30%削減」など、目指す姿を数字や条件で表すと判断の基準になります。 現状と理想の業務フローを整理する: 今の手順と、導入後に目指す手順を並べて書きます。順番と役割、入力物・出力物が分かるレベルにしておくと、話が早くなります。どの工程を自動化したいのか、どの確認を減らしたいのかが見えると、必要な機能が自然と浮かび上がります。 機能要件を列挙する: 利用者の行動の流れに沿って、システムが「できること」を並べます。動詞から始めると整理しやすく、読み手にも意図が伝わります。 例:登録する/検索する/絞り込む/並べ替える/承認する/通知する。 重要度や実施時期を添えておくと、見積もりや段取りを組みやすくなります。 非機能要件を明記する: 機能以外の条件も最初に合意しておきます。性能(応答時間、同時接続数)、可用性(稼働時間、復旧の目安)、セキュリティ(認証、権限、ログ)、バックアップ、サポート時間帯、対応ブラウザや端末など。数値は目安で構いません。方向性を合わせることが第一です。 範囲と優先度をはっきりさせる: 今回対象にするもの、しないものを明記します。さらに、必須・できれば・将来検討の三段階で優先度を付けておくと、変更があっても調整しやすくなります。足し算だけでなく、引き算も書いておくと安心です。 受け入れ基準を決める: どの観点が満たされれば「OK」とするのかを短く定義します。例:主要画面は想定ブラウザ3種類で問題なく操作できる/申請・承認・差戻しが指定の流れで実行できる など。終盤の判断を軽くするための一言です。 |
要件定義書は初版で終わりではありません。打ち合わせでの質問や決定事項を反映し続けることで精度が上がります。版番号と更新日、変更点のメモを残し、常に最新版がひとつだけ参照できる状態にしておきましょう。
仕様書のチェックポイント

仕様書は要件を「作れる形」に落とし込む工程です。すべてを理解する必要はありませんが、発注側として確認しておきたい観点があります。ここを見れば、実装のぶれや使いにくさを初期段階で防げます。
画面設計の妥当性: 利用者が迷わず操作できる導線になっているかを確認します。具体的には、画面ごとの役割が明確か、入力項目の意味や必須条件が分かるか、確認やエラー時の表示が一貫しているかを確認します。 データフローの整合性: 入力から処理、保存、出力までの流れが矛盾なくつながっているか。どの情報をどこで作り、どこで更新し、どの形式で出すのかを確認します。複数システムと連携する場合は、同期のタイミングやエラー時の扱いまで記載があるかを確認します。 エラー・例外処理: 想定外の操作や外部サービスの不調に対して、どう返すのか。ユーザーに何を表示し、どんな行動を促すのか。運用で困らない文言や流れになっているかを確認します。 セキュリティ要件: 誰が何を見ることができて、何を更新できるのか。個人情報や重要データの扱い、ログの取り方、暗号化の有無など、実運用に直結する部分が多いため、仕様の段階で線引きを共有しておきます。 保守・運用の考慮: バックアップの方法、監視の項目、アラートの連絡経路、メンテナンスの手順を確認します。完成後に毎日触れるのは運用です。ここが仕様に含まれていれば、引き継ぎが楽になり、トラブル時の対応も素早くなります。 |
テンプレート紹介

白紙から始めるより、基本の型を使うと速くて漏れが少なくなります。以下は最初の一歩としておすすめの構成です。必要に応じて削ったり、項目名を自社の言葉に置き換えたりして使ってください。
要件定義書の主な項目
プロジェクト概要(名称、目的、期待効果)
対象範囲(含む/含まない、関係システム)
業務フロー(現状と理想の簡易図)
機能要件(重要度の目安つき)
非機能要件(性能、可用性、セキュリティ、運用)
受け入れ基準(確認観点のメモ)
前提・制約・リスク/改訂履歴/問い合わせ先
仕様書の主な項目
システム構成(環境の前提や接続関係)
画面と操作(画面一覧、遷移、入力仕様)
データとファイル(項目定義、関連、出力形式)
外部連携(方式、タイミング、失敗時の扱い)
権限とセキュリティ(ロールごとの可否)
性能と運用(目安値、監視、バックアップ)
テスト観点(要件との対応関係)
便利な作成・管理ツール
Microsoft Word / Excel、Google ドキュメント / スプレッドシートのほか、Confluence(社内Wiki)、Backlog(課題・仕様の管理)など。
これらのツールを共同編集できる環境に置き、コメントや変更履歴が残る状態にしておくと、認識合わせがスムーズです。図は手早く作って貼り、後から差し替えれば十分です。
実際に使えるテンプレート例
IPA「非機能要求グレード」:
非機能要件の洗い出しに有効。性能や可用性、セキュリティなどを体系的に整理できます。
経済産業省「システム開発・保守の委託契約ガイドライン」付属様式:
要件定義書・基本設計書のサンプル構成が収録。契約書と一緒に使うと効果的です。
IPA「安全なウェブサイトの作り方」設計書サンプル:
セキュリティ要件の反映に役立つ記載例を収録。
Microsoft 公式テンプレート(Officeテンプレート集):
要件定義書や業務フロー図のひな形をExcel・Word形式でダウンロード可能。
Google ドライブのテンプレートギャラリー:
リアルタイム共同編集が前提の簡易版要件定義書やWBSひな形を利用可能。
これらを参考に、自社の業務内容や開発規模に合わせてカスタマイズすることで、ゼロから作るよりも短時間で精度の高い資料が作れます。
まとめ:準備が成功を左右する

要件定義書と仕様書は、外注先との共通言語であり、プロジェクトの設計図です。最初に言葉で揃えておけば、見積もりの精度が上がり、スケジュールも読みやすくなり、完成後の使い勝手も安定します。完璧を目指すより、まずは骨子を書き、打ち合わせを通じて更新を重ねましょう。大事なのは、誰が読んでも同じ意味に解釈できること、そして最新版が迷わず見つかることです。
外注は、足りないリソースと専門性を補う有効な選択肢です。ただし「任せきり」にせず、発注前の準備をきちんと行うことが前提になります。まずは以下から始めてみてください。
|
これだけでも要件定義書の土台ができ、外注先との初回打ち合わせが格段にスムーズになります。準備が整っている発注は、外注先からの信頼も高まり、プロジェクト全体が落ち着いて回ります。


